進取の精神を大切に、美しく豊かな暮らしを創造し続けていきたい

代表取締役社長 兼 グループ代表・CEO

統合報告書2026トップメッセージより)

総合的な提案力で、暮らしとビジネスに新たな価値を提供する

—— 愛知県名古屋市にあるスタートアップ拠点「STATION Ai」の中に「あいち創業館」があります。愛知県にゆかりのある起業家の1人として、サーラグループのルーツにあたる豊橋瓦斯・浜松瓦斯の設立に関わった神野三郎氏のことが紹介されています。創業から脈々と受け継がれる企業理念や、事業にかける想いにはどのようなことがあるのでしょうか。

 神野三郎の事業の原点は「神野新田開発」にあります 19歳の若さで現地責任者に就くと、当時最新だった服部長七の人造石技術を取り入れ、難工事だった築堤を成し遂げました。 完成後は新田の管理を任され、入植者の生活向上のため東奔西走したんですね。 彼の信念は「公益」、すなわち社会にとって、地域にとって意義があるかを問い続けることにありました。 新田経営が一段落すると、都市ガス事業をはじめ、鉄道や保険等、暮らしを豊かにし、社会の発展につながる事業に使命を尽くしました。「昨日より今日、今日より明日」と、地域の生活基盤を豊かにしていこうとする開拓者精神や進取の気風は、「より美しく、より豊かな暮らしを創造し続けていきたい」という、現在のサーラグループの理念の礎になっています。 私たちがありたい姿として掲げる2030年ビジョンや、2026年1月に公表した第6次中期経営計画の策定においても、「豊かな暮らしの実現」と「地域経済を豊かにする」というミッションを改めて強く意識しました。

—— 新たに公表した「第6次中期経営計画(2026-2030)」(以下、本中計)の策定にあたって、合宿形式の取締役会で議論を重ねたそうですが、どのようなことを討議されたのでしょう。

 合宿形式での取締役会を「Beyond 2030」と名付け、2030年の先を見据えて、未来からのバックキャストで経営を考えるディスカッションの機会にしました。 社外取締役の皆さんはもちろんのこと、事業会社の次世代リーダーにも参加してもらい、これまでにないくらい活発な議論が行われました。 日頃、業務を執行していると、どうしても短期的な事象やそれぞれの担当分野に目が行きがちになりますので、「Beyond 2030」の最初のセッションでは、サーラグループの歴史を振り返り、創業の精神に立ち返って、「自分たちが何者であるのか」について改めて全員で確認しました。 ここでも、進取の精神が1つのフォーカスすべきポイントになりました。 変化の時代においても、積極果敢にチャレンジし、「豊かな暮らし・社会の実現」に向けて、なくてはならない企業グループであり続けようと決意を新たにしたのです。

 続くセッションでは、2030年の先にどのような未来が訪れるか、そうした未来においてサーラグループが目指していきたい姿を徹底的に議論しました。 未来に向けて私たちは何をすべきかを長期的な視点で議論、認識合わせをして、その上で策定したものが本中計となります。

—— 2030年の先「Beyond 2030」の変化について、どのような議論があったのでしょうか。

 やはり、現在は「超情報化社会」ということで、例えばスマートフォンやGoogle等のプラットフォーマーにより、様々な機能や情報をコーディネートしたり、コントロールすることで、あらゆるビジネス領域で劇的な変化が生まれやすくなっています。 また、AIやロボティクス等の技術革新と普及による影響も大きいと思います。 ロボティクスによって製造業はもちろん、医療や物流、車の運転に至るまで自動化が進み、日常のインフラになる未来が容易に想像できます。 さらに環境・エネルギーの分野でも、これまでの化石燃料を使用した大規模発電・送電・消費という単純な図式から、再生可能エネルギーや蓄電も含めた分散型の需給システムを制御し、最適化・効率化を実現する社会へと変化しています。

 こうした時代には、これまでのように事業ごとに専門性を発揮するのではなく、顧客ニーズの深い理解をもとに、複数事業を束ね、必要に応じて外部と連携した総合的な提案力が求められます。 その点、サーラグループは多彩な事業を展開するだけでなく、それぞれの現場で積み重ねてきたお客さまとの信頼関係に圧倒的な強みがあります。 その強みを活かすには「事業をクロス」させること。 つまり、横串の発想でトータルコーディネートを展開していくことが今後の成長の鍵になると考えます。

 このような背景から、本中計の基本方針は、「X(クロス) 120」としました。 前中計では「枠を越える」を基本方針に掲げ、様々な連携・共創に取り組んできましたが、その枠を越えた先でX(クロス:交差、連携、共創)し、変革を成し遂げ、新たな価値を創造していくことを目指します。

※「120」は2029年に創業120年を迎えるとともに、本中計の最終年度の連結営業利益目標が120億円であることから表現。

—— 将来からバックキャストした時に、どのような経営課題やリスクがあるとお考えでしょうか。

 取締役会「Beyond 2030」の最後のセッションは、2日間の議論を踏まえて経営課題やリスクに関する集中討議を行いました。 当社の社外取締役を務めている大久保和孝さんが5年ほど前から、コーポレートメンバーと各事業の経営層を集めてリスクマネジメントの研修会を定期的に開催しています。 主要な事業ごとに、リスクを「業績への影響度」と「リスクの統制活動が必要な度合い」の2軸・4象限からなるリスクマップとして可視化し、原因と対策を掘り下げる点が特徴です。 今回は初めて当社の取締役会で議論を行い、2030年の先を見据えて各事業のリスクマップを見直しました。 
 今回の議論で、業績への影響が大きく、かつリスク統制が必要なトップリスクとして各事業に共通して見られたのは、大規模地震対応、脱炭素化社会への対応、人材の確保・育成、サイバーリスク対応等でした。 なかでも人材の確保・育成につきましては、「Beyond 2030」に向けて事業の変革を実行していく人材の確保・育成が大きな課題になるという認識を強く持ちました。 こうした議論を踏まえて、本中計では重点戦略の1つに人材の採用・育成・定着とエンゲージメント向上を掲げ、事業ごとの人材ポートフォリオの明確化と人事施策を打ち出していく予定です。 

—— 住まい事業を拡大するにあたっては施工従事者の人材不足も深刻な課題だと思います。 

 仰る通り、エンジニアリング&メンテナンスとハウジングのリスクマップでは、施工力の確保がトップリスクの1つに挙げられています。 当社の協力会社からも「職人の確保が難しくなっている」という話を聞いており、今のうちに根本的な解決を図らなければ、将来的に深刻な影響を受けることも考えられます。 そのため、今後は自社で人材を採用・育成するアプローチを強化していきます。 それも、住宅施工だけでなく、ガス・電気・水道・通信といった基盤インフラの全てを手掛けることができる多能工人材を育成する想定です。 また、独立を目指す社員には、起業するという選択肢を設け、サーラグループと協力関係を持って地域の暮らしを支えてもらえたら素晴らしいと思います。 地域の暮らしをともによくしていくパートナー(人・企業)の育成という観点では、学校のような形で本格的に取り組むのもよいと考えています。 

——  昨年末には「全社員ミーティング」を開催し、サーラグループの歴史とアイデンティティを発信されました。 

 新しい中期経営計画のスタートにあたり、あらためてサーラグループの原点を振り返り、大切にすべき価値観やミッションについて社員の皆さんと共有したいと考えました。 いくら技術が進化しても、人として、組織として、何をなすべきかを明確に持っていなければ成長は期待できません。 今どきは、社会課題の解決法ですら、AIが答えてくれるかもしれません。 けれども、人を動かすのは、共有する価値観があり、創造性やストーリー性があるからではないでしょうか。 AIがどこまでできるのか分かりませんが、やはり私は人間らしさ、人間の叡智を信じたいと思います。 

 それからもう1つ社員の皆さんに伝えたことは、お客さまとの信頼関係を大切にしながら、他の事業や企業とクロス(連携・共創)することによって、一歩先を見据えた提案力が加われば、人として企業としてさらに大きく成長できるということです。 例えば、お客さまのエネファーム(家庭用燃料電池)が老朽化した際に、機器の買い替えを提案するだけでなく、ランニングコストはもちろん、ガスと電気のハイブリッドだからレジリエンスが高いことや、省エネ・創エネ、お風呂やキッチンに関する話まで、お客さまの暮らしをより豊かにするために、自分たちにできることを、より幅広い発想力で広げてほしいと思います。 

 また、法人向け(BtoB)の提案についても、愛知県東部では製造業企業による工場の新設投資が活発で、エネルギー関連の相談はもちろん、工場の効率化や雇用確保にともなう住居関連まで、幅広くご相談をいただくことがあります。 特に雇用の問題については、それぞれの事情に応じた様々な選択肢が求められています。 サーラ不動産では、最近需要が増えているコリビング※や空き家のリフォーム活用も含めたストック住宅ビジネスにも力を入れ始めています。 例えば、郊外の持家を早期に売却いただき、お客さまは利便性の高いシニア向けコリビングに移住し、買い取った家は次世代向けの賃貸戸建てとして供給する。 そうした資産の流動化と住み替えのサイクルを、サーラグループで提供していくことも可能です。 

※コリビング:シェアハウスとコワーキングを組み合わせ、住む・働く・交流が一体化した住まい。仕事やコミュニティのための設備・仕組みが充実している

——   本中計では、事業エリアを拡大されることも表明されています。 

 これまでは、本社がある豊橋市を中心とした愛知県東部や浜松市のある静岡県西部で事業を発展させてきました。これらの都市では、失われた30年と言われる期間にも製造品出荷額が飛躍的に増加しており、今後も製造業を中心に新しい投資が進むと見込まれます。当地域に根差した事業については、トップラインや収益力の向上を引き続き図っていきます。今後はそれに加えて、名古屋市を含む愛知県西部や静岡・関東地域でも事業を拡大していく方針です。いずれの地域においても、まずはリフォームを中心とするストック住宅ビジネスを既存の事業基盤と連携させ、お客さまにとって最適な商品・サービスを提供していきます。これは、2024年にグループ会社となった安江工務店が有する強みを融合した新たなビジネスモデルです。まずは同社が主な拠点としている名古屋市を含む愛知県西部でストック住宅ビジネスの確立を図り、その後、他のエリアへと展開していきます。

 

価値創造に向けた新たな枠組み

——  本中計では、取り組むべき領域として、「E(エネルギー・環境)」、「食」、「住」を設定されました。「E(エネルギー・環境)」領域については、電力事業の拡大を掲げていますが、どのような方向性をお考えですか。 

 サーラグループは、2016年4月の電力小売全面自由化に先行して2015年に電力事業に参入し、2019年には豊橋市において東三河バイオマス発電所を稼働開始しました。2025年には浜松市に系統用蓄電所を、豊橋市には再生可能エネルギー併設型蓄電所を建設し、それぞれ稼働開始しています。地域における電力の需給管理の現場に入ったことで、様々な課題を把握することができました。

 本中計では、特にお客さま側の蓄電を支援することにフォーカスし、電力ビジネスを拡大していきます。個人向けには家庭用蓄電池、企業向けには太陽光発電等を採り入れている工場や施設において産業用蓄電池を活用いただくことで、カーボンニュートラル対応やレジリエンス向上、エネルギー効率向上等を積極的に提案していきます。蓄電池ビジネスには、大手の電力会社や商社が数千億円規模のファンド型ビジネスを展開していますが、サーラグループの強みである顧客接点を活かして、地域に根差した取組みを積み上げる形で、着実にボリュームを増やしていきます。

—— 「食」領域については、これまでも生産者や料理人の方々を「フードクリエイター」と呼び、愛知県東部(東三河)をその聖地となるように発展させていきたいと話されてきました。本中計では、これまで打ち出してきた「東三河フードバレー構想」を一歩進め、次の事業として育てていこうということでしょうか。

 愛知県東部は、気候や輸送の立地にも恵まれ、農業産出額が全国でもトップクラスとなっています。サーラグループでは、2008年にホテルアークリッシュ豊橋を開業してから、こだわりを持つ地元の生産者とのネットワークを拡げてきました。地域の生産者はこの土地の資源を活かして本当に素晴らしい産品を生み出しており、その魅力を広め地域活性化につなげたいと考え、「東三河フードバレー構想」を打ち出してきました。最近では、地元の生産品が東京や名古屋のレストランで高く評価されるようになってきましたが、もっとブランディングできると考えています。実は、農業産出額を見ると、1990年代と比べてほとんど伸びていない状況にあります。また、後継者不足や耕作放棄地等の課題が深刻化しており、この先の機械化やDX活用等の投資を考えると、企業ができることは少なくないのではと考えています。
 こうした考えのもと、2025年1月にサーラアグリを設立し、農業ベンチャーの第一人者である㈱日本農業とタイアップしてキウイの栽培を始める等、農業の事業化に着手しました。本中計はまさに種まきの期間ですが、ここでの経験で生産から流通、販売まで一貫した付加価値の高い農業のノウハウを蓄積し、食・農事業を2030年以降における事業の柱の1つに成長させたいと考えています。

—— 「住」には住まい、暮らしのほか、社会インフラも含まれるとのことですが、2024年12月にグループインした安江工務店とのシナジー発揮に向けたプロジェクトの進捗状況はいかがでしょうか。

 さきほどもお話しした安江工務店は、お客さま満足度が高いだけでなく、高い生産性や収益性を生み出す業務プロセスも優れており、学ぶべき点が非常に多くあります。そもそも、一緒にやっていこうと合意した決め手は「地域やお客さまとのつながりや信頼を大切にする」という理念や価値観が共通していたことにあります。同社は東証スタンダード市場に上場していたため、TOBという手法で連結子会社になり、お互いの理念に共感し、現在、協力してインテグレーションのプロジェクトを推進しています。両社の業務プロセスや強みを詳細に分析し、お互いのノウハウを最大限生かすことができる体制を検討しています。住宅・リフォーム関連事業を従来の延長線ではなく、会社形態やブランド展開の在り方も含めて再構築する方向性で、今期中には具体的なシナジー実現の計画を公表する予定です。

 

「表裏のない経営」で、企業価値と社会価値の両立を実行

—— 東証プライムに上場する企業グループとして、資本市場とどのように向き合っていますか。資本市場と向き合う上で大切にされている考え方を教えてください。

 この数年間、取締役会や、常勤取締役で構成される経営会議の中で、PBRの改善について議論を重ねてきました。その中で重視してきたのは投資家との対話です。多様な投資家の皆さまに当社の考え方をしっかりと伝え、ご理解いただくとともに、投資家の皆さんが何を課題と捉えているか理解に努めることが重要だと考えています。実際に、昨年は初めて取締役会の中で、一般社団法人機関投資家協働対話フォーラムとの対話を実施しました。投資家との対話によって得られた気づきをもとに、資本市場からの期待に応えるべく下記の施策を実施しています。

 新しい中期経営計画では、最終年度である2030年のROE目標を10%に設定しました。目標を実現するために、事業ごとにROICの目標を組み込み、業務のレベルまで展開することを計画しています。当社の筆頭株主は従業員持株会です。社員の皆さんには、自分の仕事が当社の企業価値とつながっていることを意識し、当社グループの存在意義や、地域とともに価値を創造し成長していく企業だということを伝え続けていきます。これからも、私たちは、企業価値と社会価値の向上のためにできることは何かを問い続け、ステークホルダーの皆さんから必要とされる存在であり続けられるよう、「美しく豊かな暮らし」を創造し続けてまいります。

PBR改善に向けたコーポレートアクション

2024年 7月

キャピタル・アロケーション方針の公表

成長と資本収益性の向上を目的に、事業変革と価値創造のための積極的な成長投資を行うと同時に株主還元を強化

2024年 7月

配当方針の変更(配当性向を30%目途から40%以上に引き上げ、累進配当の導入、機動的な自己株式取得の表明)

株主還元を強化し、資本収益性を高めるために、配当性向の引き上げと機動的な自己株式取得を実施する方針を決定

2024年 10月

個人株主向けに株主優待制度の拡充(対象区分、長期保有優遇の追加)

多くの個人投資家の皆様に保有いただけるように、2,000株以上の優待区分を新設し、3年・5年・10年の長期優待を追加

2025年 2月

役員向け業績連動型株式報酬制度の導入

投資家と同じ目線で企業価値向上を実現するため、連結ROE、連結営業利益、ESG指標と連動する株式報酬制度を導入

2026年 1月

第6次中期経営計画の公表とキャピタル・アロケーション方針の改定

2030年ビジョンの達成に向けた道筋を明確にし、さらなる資本収益性の向上に向けた資本配分を策定

2026年 3月

金融機関が保有する政策保有株式の売出しと自己株式の取得、従業員向け株式インセンティブ制度の導入を公表
流動性の向上及び、戦略的な株主構成の見直しのため、金融機関が保有する政策保有株593万株の売出しを実施